経済学担当の岡崎哲郎です。
この時期になると、ゼミに所属する学生は卒業論文作成に集中します。私の場合は学生時代のゼミの長名寛明先生が厳しい方で、それゆえに今でも記憶が鮮明です。
研究室に尋ねていき最初の中間報告をしたときには、ゲーム理論の重要定理が対象を限定してはいないか?というアイデアを説明しようとしたのですが、先生の質問が具体的で、それに答えていくうちに誘導尋問にかかったように漠然としたものが具体化していきます。最後に「僕も同じ問題を考えて、3人までなら証明できてそれは論文にしたが、4人以上は証明できなかった」と話しながら、先生の論文の抜き刷りを渡されました。先生の質問が具体的である理由がここで判明します。先生にできないことが私にできるわけがなく断念。そこで学園祭でのゼミ研究発表の際に読んだ論文の設定を自分の問題意識に合わせて書き換えようとします。応用問題レベルと考えていたのですが、ゼミで報告すると、先生が真顔で「それは君のモデル?」と聞いてきます。「そうです」と答えると、「同じ手法を僕も考えていて、今論文にまとめている」と言われ、直ぐ後に先生の未発表の論文を渡されました。それからは、先生の難解な論文を読み通すだけで学部生のレベルを超える作業であるうえに、自分の議論もまとめなくてはいけなく、加えて英語で書くことに挑戦したものですから、完成までは卒論作成没頭の日々でした。
私の卒論は、学部生が考えたものですから当然不完全なものでしたが、その時に先生が渡してくれた先生の未発表論文は、長年の改良の末に形を変え世界的な専門誌に掲載され、昨年ノーベル賞を受賞したハーヴィッチ教授の最近の著作の文献一覧にも掲載されています。先生はそのときに取り掛かった問題をその後も一貫して研究し続けたわけです。私と言えば、情けないことに、その時の問題の考察は放棄していました。
長名先生は昨年度に母校を退官され、その際に私の卒論を返却してもらいました。自分でモデルを作り、自分が証明した定理をつたない英文で示した卒論が今は手元にあります。卒論は、個人的には、学生生活の勉強面での総決算となったという経験と、長名先生の学問に対する真摯な姿勢を思い出させる、人生のキー・タームとなっています。
卒論に限らず、ゼミ活動、友人関係、サークル活動など大学時代の経験は人生の宝物となっています。サービス創造学部は、講義・ゼミだけでなくプロジェクト実践などもありますから、普通の大学にない様々な経験を学生ができるのではと期待しています。