サービス創造学部 准教授の清水です。
スタインベック*の小説にこんなものがあります。
ある若者が、戦争に行っていて、自分の村に帰ってくる。村に帰ると、見知らぬ老人が黙ってホースを向けて、水を若者に飲ませてやるのです。若者はその水をゴクゴク。それを見ていた件の老人が一言・・・、
- どうだ、自分の故郷の水はうまいだろう -
たったこれだけ・・・。簡単明瞭、けれど、小説の真髄はこんなところにあるんではないかいな?
内容はうろ覚えなのですが、たしかこんな感じだったと思います。これは、小説家の開高健が書いたエッセイ(開高健「白いページ」光文社文庫にて復刊)の一頁なのですが、さすが博覧強記の筆にかかれば、小説を、芸術を、ときに自我の創造を・・・、一言半句うまく書き表すものだと思います。
論文は小説とは違います。が、名文から学ぶことは、決してマイナスになることはありません。有名な話としては、法曹を目指す人々が、志賀直哉の文章を模写して文章表現を学んだ、なんて逸話があります。志賀直哉の簡潔でいて、高い芸術性を維持し続ける文体が、実務家の気に入るのでしょうか。
現代は、およそ名文と思えるようなものに出会う機会が少なくなりました。それは、読む側の我々にも原因があるのかもしれません。はたまた、ビジュアルや音声などによるコミュニケーションが主流になってきたからなのかもしれません。けれど、複雑な事象や心象を、文章できちんとまとめあげるスキルというのは、今も昔もビジネスマンにとって重要なものです。
私も教員の一人として、学生の皆さんに、自分自身の頭で考えること、そして、それを他の人に伝える技術を教え続けたいと考えています。
*ジョン・アーンスト・スタインベック(1902-1968年)
アメリカの小説家、劇作家。代表的なものに「怒りの葡萄」「エデンの東」などがある。1962年ノーベル文学賞受賞。