「ロング・グッドバイ」


サービス創造学部 准教授の清水です

深夜、テレビを見ていると、「ロング・グッドバイ」というドラマが放映されていました。フィルム・ノワール*を思わせるモノトーンの色調、セリフの少ない演出など、なんとなく深夜に合った雰囲気だったので眺めていると、はて、これはどこかで読んだようなストーリだな、と気づきました。 そうです。ミステリーファン(本当は文学に入るべきものですが)なら知らぬ者なき、巨匠レイモンド・チャンドラーの『The Long Goodbye』(『長いお別れ』(清水俊二訳))です。最近、村上春樹さんが新たに訳出(『ロング・グッドバイ』共に早川書房)したものがあるので、学生の皆さんは、そちらの方が馴染みやすいかもしれません。

内容はといえば、怜悧で雄偉な探偵が、都会の吹き溜まりを喘ぎながら、事件を解決するという、お決まりのハードボイルド小説です。ところが、チャンドラー小説の主人公である探偵フィリップ・マーロウは、それほど切れ味よくなく、例えば、ギャングに襲われ殴られる、お酒によってフラフラになる、そしてまた、不当な事件で警察に捕まってしまう、などなど、散々な目に遭遇します。
では、なぜこの小説が長い間、人の心を打ってきたのでしょう。それは、ひとえに、主人公マーロウの生き方のカッコよさにあるのでしょう。マーロウは、自分自身の信念に従ってしか行動しないのです。人から命令されようと、脅されようと、あるいはそれが客観的に不利な選択であろうとも、、、納得出来なければ、決して自身を欺かないのです。そうして、孤軍奮闘、昼間は見栄を張って生き抜き、夜更けに独りカクテルを舐め、窓から流れ込むロサンゼルスの猥雑なネオンと、柔媚な空気に心を委ねるのです。
現在の社会において、マーロウのような生き方は、多分(?)無理でしょう。しかし、だからこそ、小説の世界でそのようなことが許された時代に思いを馳せるのもよいものです。

最後に、マーロウのとっておきのセリフをご紹介したいと思います。『ロング・グッドバイ』ではないのですが・・・。

- 強くなければ生きてはいけない。優しくなければ生きている資格はない。 -

実社会でも役に立つかもしれません。
ではまた。

*フィルム・ノワールはフランス語で”暗い映画”の意。転じて、40年代以降の犯罪映画を表す言葉となった。ハリウッドを出自とする一連の作品が有名だが、60年代のフランス映画も出色の出来栄えである。