古きよき冒険小説から学ぶこと


サービス創造学部 准教授の清水です。

専門について学ぶのは、なにも専門書からだけとは限りません。時として、思いがけないところから思いがけないことを学ぶこともあるものです。今日はその一例をご紹介しましょう。

先日、自宅の書庫を掃除していると、一冊の古ぼけた文庫本が見つかりました。いつ買ったものか、はてさて皆目検討がつかないのですが、黄色くなった表紙から推すに、相当の年数が経過していることは明らかです。
知る人ぞ知る冒険小説の古典的名作「深夜プラス1」(ギャビン・ライアル / 菊池 明 訳、早川書房)。それがこの本のタイトルです。作者は英国空軍出身の作家で、その時の経験を基にした冒険小説をいくつか書いています。
この作品もそのひとつで、ストーリィは至って簡単。”二人のプロフェッショナル”(一人はガンマンで役割は”ボディガード”、もう一人はエージェントで”ドライバー”に徹します。)が、依頼人である訳ありの事業家を”安全”且つ”時間厳守”で目的地に送り届けるというものです。

この小説が、どういう専門性に生かせるのか?

それは、取りも直さずプロフェッショナルとしての倫理観といえましょう。
一人のガンマンと一人のドライバーは、①決してお互いの専門領域を侵しません。相手の役割と能力を”充分に理解”し、”敬意を払っている”のです。それでいて、②必要とあらば”協働”して事にあたります。そしてなにより、③プロフェッショナルとして”道具”に徹底的にこだわります。ここに、現代の高度に分業化された専門職に共通する”なにか”を見つけ出すことは出来ないでしょうか。
残念ながら、物故して久しい作家は、その詳細について多くを語ってくれません・・・。しかし、組織についての洞察や、特定のミッションにコミットするプロフェッショナルとしての規律(ディシップリン)のようなものを遺してくれています。
少々強引ですが、ここから得られる教訓を援用して、大学で学ぶ上での心構えとなるべきことを記してみましょう。

①(自分自身の拠りどころとなる)進むべき方向性を漠然とでもいいから考え続ける。
②(別の専門家などと情報交換を円滑に行うために)コミュニケーションスキルを身につけるよう意識する。
③(学生の本分たる学びのツールである)教科書、そしてノートやペンは上等なものを揃える。

いかがでしょうか。

余談ですが、「深夜プラス1」のように書かれた時代背景が少々古い(原書初出は1965年)作品は、ややもすると読みにくいと思われがちです。・・・が、登場人物の個性や人間性、そして取り巻く環境などを理解する上では問題ないといえるでしょう。そんな瑣末なことを気にするよりも、雨に濡れたパリのカフェでの虚無的な光景とか・・・、旧式のスチーム暖房にむせぶスイスの高級ホテルのスイートルームの気だるさとか・・・、朝から嗜むヴィンテージシャンパン・クリュグの誘惑などを五感で想像する方が、知的好奇心にとってはるかによろしい。
尚、タイトルの「深夜プラス1」ですが、小説の最後の方に理由が出てきます。このタイトルのつけ方がなんともシャレてるんですな。日本人にはなかなかこのセンスは難しいものです。

最後は脱線してしまいましたが、”次世代サービス創造を担うプロフェッショナル”として、楽しみながら、時に真剣に頑張ってもらいたいと思います。