中村秋生先生の論文を読んで

サービス創造学部の坂井です。

2月のブログでも今井学部長よりお知らせ致しましたが、本年2月22日未明、本学部教授の中村秋生(なかむら しゅうせい)先生が、その63年の生涯を全うされ、天に召されました。
秋生先生は、約19年間(株)レナウンに勤務された後に大学教員となられ、経営教育や経営倫理教育に関する学術研究と経営学教育にその半生を捧げられました。高い学識、明晰な頭脳、ユーモアのセンス、卓越したリーダーシップ、豊富なご経験、厳しさと優しさをあわせ持ち、本学部設立当初より私たちを導いて下さり、学部運営にとってかけがえのない存在でした。
若手にも「飲みに行こうよ!」と気さくに声をかけて下さり、日本酒を片手に楽しく語らうことがお好きでした。心から敬愛する先輩でした。

「秋生先生の論文をもう一度読みたい!」
そう思い立ち、3、4年のゼミ生たちと「組織における道徳的罠」(日本経営教育学会編『経営教育研究』第10巻、139-153頁、2007年)を一緒に読みました。「組織における悪行(反道徳的行為)はなぜ起きてしまうのか?」組織行動論的アプローチにより、道徳的罠(わな)という分析枠組みを導き出したご研究で、私とは研究分野が異なるものの、はじめて読んだ時から大きな影響を受けてきました。
さらに学生たちとは、最近起きたN大学アメフト部のケースを使い、反則を犯した選手、元監督やコーチそれぞれの立場に立って道徳的罠について議論しました。学生たちからも活発に意見が述べられ、実りある議論ができたと思います。

この論文で何よりも印象的なのは、秋生先生のご研究の前提です。それは「組織で悪行を犯した人は悪人ではなく、普通の善良な人びとである」とするものです。何か不祥事や犯罪を目にした時、私たちは、その当事者を生まれつきの悪人だとか、普通の人(つまり自分たち)とはどこか違う
人だと決めつけてしまいがちです。その方が、自分自身が気楽でいられるからかも知れません。
「しかしそうではない。自分が同じ立場におかれた時、同じ事をしないと言えるだろうか?まずはその人の立場に立って、冷静に考えてみよう。そして、どうしたら不幸な出来事を起こさずに済むか、一緒に考えていこう。」
優しいまなざしで、そう語りかけてくる秋生先生の姿がよみがえってきます。

「もっと秋生先生と話したかった。」